スタイルガイド(書式規定)

医療翻訳情報

みなさん、こんにちは。
少々昔にさかのぼりますが、以前Windowsの表記が「フォルダ」から「フォルダー」に、「コンピュータ」から「コンピューター」に変更になったことを覚えていますか?私はいまだに自分で書くときは「フォルダ」としてしまいます。こうした表記は統一されていないと、読む人に違和感という余計なストレスがかかります(Microsoft Wordでも校正機能によって、「揺らぎ」を示す青の二重線が引かれます)。では、たとえば和訳の際、「フォルダ」とするか「フォルダー」とするか、どちらに統一すればいいのでしょう?その指針となるのが「スタイルガイド」です。

スタイルガイドって何?

スタイルガイドとは、表記を統一するための規定書です。ばらつきを防いで、表記を統一するためのガイドラインとなります。MTSでは「書式規定」と呼んでいます。百聞は一見に如かずということで、実際のMTSのスタイルガイドをご紹介します

MTSのスタイルガイド(一部抜粋)

日本語
<表記方法>
● 略語は原則として*本文中での初出時(表中や図中は文書全体で初出でも略語のみ)に正式名を用いて記載したうえでカッコ内に略語を併記し、以降は略語を使用する。例:米国薬局方(USP)。
● 1ヵ月などの表記には「ヵ」を使用する(×1ヶ月・1か月)。ただし、前に数字や「数」・「何」などがつかない場合は「箇所」を使用する。例:1ヵ月、数ヵ所、何ヵ月、当該箇所。


<句読点・記号>
● 数の範囲を表わす場合は全角波ダッシュ「~」を使用し、半角ハイフン「-」は使用しない。
● セミコロンは使用せず、読点に置き換える文を区切るなど適宜日本語として自然になるよう処理する。例:「ANOVA, analysis of variance; LDL, low density lipoprotein」→「ANOVA:分散分析、LDL:低比重リポ蛋白」
● 「following」を意味するコロンは使用せず、句点を用いる。例「Candidates for the study must meet ALL of the following inclusion criteria:」→「本試験の候補者は、以下の組入れ基準をすべて満たさなければならない。」(…満たさなければならない、は×)
「表3:有害事象一覧」などの見出しの区切りとしてのコロンは使用可能。
● かっこが二重の場合の内側から、丸括弧⇒角括弧とする。例:[本日(1月13日)は晴天なり]
 
上記は日本語にする場合の、ほんの一部を抜粋したものです。かなり細かく決まっているでしょう?煩雑に思われる方もいるかもしれませんが、ルールで縛ることが目的ではなく、翻訳するときに迷ったり、困ったりすることがないようにするため、またMTSがお客様に提供する翻訳に一貫性を持たせるために設定しています。
また、MTSのスタイルガイドには、日本語以外にも英語及び中国語に関するルールも記載されています。

MTS以外のスタイルガイド

上記の例でご紹介したのはMTSのスタイルガイドでしたが、もちろんより一般的なスタイルガイドもあります。
日本翻訳連盟(JTF)のスタイルガイド:「JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」
(https://www.jtf.jp/tips/styleguide)
JTFが作成した、和訳の実務翻訳に使用できる日本語表記用のスタイルガイドです。無料で使用できる&電子データなので、とても使いやすいです。

新聞や出版物のスタイルガイド:「日本語の正しい表記と用語の辞典」(書籍・講談社)/「朝日新聞の用語の手引き」(書籍・朝日新聞出版)などなど:普段目にする新聞や書籍などにももちろん厳密なスタイルガイドがあります。広く一般に公開される文章はそれだけルールも多く、いろいろな内容が詰め込まれているので厚い本になってしまっていて、ちょっとだけ参照するには不向きですが、公の目に触れる文章を書く人には必携の一冊です。

内閣告示・内閣訓令:一般の社会生活における日本語表記の目安として、常用漢字表、現代仮名遣い、送り仮名の付け方、外来語の表記、ローマ字のつづり方について内閣告示や内閣訓令が出ています(https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/index.html)。
「スタイルガイド」と呼ぶには足りない部分も多いですが、表記の参考となります。

スタイルガイドの優先順位

上記にてスタイルガイドの例を挙げてきましたが、次に、「それじゃ、今回のこの翻訳案件は一体どれに準拠すればいいの?」という話です。

優先順位1:その翻訳案件のエンドクライアント(翻訳会社の発注元)のスタイルガイドや参考資料の表記。何より重要なのは世間のルールより、その文書を実際に使う人のルールです。エンドクライアントのスタイルガイドが提供されている場合は、もちろんそれに従いますし、スタイルガイドが提供されていない場合でも、参考資料が提供されていれば、その中の表記に従います。

優先順位2:翻訳会社のスタイルガイド。MTSでもスタイルガイドを策定していますが、各翻訳会社さんも独自のスタイルガイドをお持ちです。例えば登録時などに提供されているはずなので、このスタイルガイドに準拠します。なお、エンドクライアントのスタイルガイドと翻訳会社のスタイルガイドに齟齬がある場合は基本的には優先順位に従ってエンドクライアントのスタイルガイドに従います。

優先順位3:一般的な表記ルール。エンドクライアントのスタイルガイドも翻訳会社のスタイルガイドもない翻訳案件や、スタイルガイドが事前に提供されていない翻訳会社のトライアルでは、一般的な表記に従います。特にJTFのスタイルガイドは、主要な翻訳会社がJTFの会員に名を連ねていますので、これに従っておけば間違いはないでしょう。そのほか、上記でご紹介した「新聞や出版物のスタイルガイド」や「内閣告示・内閣訓令」も参考になるかと思います。

スタイルチェックツール

スタイルガイドは多岐にわたるルールが規定されていて、慣れていない限り覚えきるのは大変です。その場合はチェックツールを使いましょう!JTFはスタイルガイドのチェックツールとして、JTF日本語スタイルチェッカー(ウェブ上で使用するもの)とWordマクロの「蛍光と対策」をご紹介しています(https://www.jtf.jp/tips/stylechecktool)。JTF日本語スタイルチェッカーは上記でご紹介した「JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」に準拠しているかどうかしかチェックしてくれませんが、「蛍光と対策」は「定義ファイル」の中に自分が準拠したいスタイルガイド(ただし所定の形式にしなくてはなりません)を入れれば、どのスタイルガイドでもチェックしてくれます。準拠していない箇所にはマーカーとコメントがつくので一目瞭然です。

おわりに

冒頭でご紹介した「フォルダ」と「フォルダー」ですが、以前は容量の問題からわずかでもデータ量を減らすため「フォルダ」を採用していたものの、データ容量キャパシティの増大化に伴い、1文字分が気にならなくなってきたので、内閣告示に従い「フォルダー」に変更となったそうです。それでも工業・情報分野ではいまだに長音符号を省く慣例が残っているので、長音符号をむやみにつけると、その業界の素人って思われてしまうとか。。。長音符号一つで怖い~(笑)スタイルガイドって重要ですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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