コーディネーターから見た翻訳者登録票

翻訳会社の「中の人」

今回は、翻訳者さんが翻訳会社へ登録の際に提出する書類についてお話したいと思います。

弊社の場合、トライアル受験の際にご提出いただく履歴書と職務経歴書は身元確認の意味合いが強く、直接審査の参考になることはありません。ただしトライアル合格後、弊社に登録の際にご提出いただく「翻訳者登録票」は、翻訳を依頼する立場のコーディネーターにとって重要な情報源となります。

翻訳者登録票とは

翻訳会社によって名称は異なるかと思いますが、翻訳者さん自身で作成いただく職務経歴や翻訳実績等を含む翻訳者情報です。翻訳会社へ登録後、翻訳コーディネーターはこの翻訳者登録票の情報を元に各案件に適した翻訳者さんを選びます。特に新しく登録された翻訳者さんの情報は、登録のタイミングですぐに社内のコーディネーターに共有され、その情報を元に各コーディネーターが自分の担当する案件にアサイン可能(その方に適した案件が依頼できそうか)か確認します。

どのような内容か

MTSの翻訳者登録票は、トライアル合格後の提出書類として以下の情報が含まれた指定のフォームをお渡ししています。

  • 氏名や連絡先、振り込み先などの基本情報
  • 翻訳可能言語と、1日あたりの作業量
  • 使用ソフトなどを含む作業環境
  • 翻訳以外の周辺業務(校正やポストエディットなど)の対応可否
  • 対応可能分野・文書(中でも得意な分野や文書)
  • 学歴や職歴などの略歴
  • 翻訳関連の資格の有無
  • 自由記入欄

翻訳者さんに記入いただいた後の登録票はデータベース化され、随時コーディネーターが検索、閲覧できるようにしています。また、上記に加えて登録トライアル時の課題内容と審査担当の評価もコーディネーターに共有されます。

コーディネーターが注目するポイント

翻訳者登録票の中でも、特に翻訳コーディネーターが注目するのは以下の情報です。

【対応可能分野・文書(中でも得意な分野や文書)】

もし対応可能分野や得意分野がその翻訳会社にとって受注数の多い分野であれば、登録後早めに初回の依頼が来るはずです。また手薄な分野であれば、依頼頻度が高くなる可能性があります。ただし、得意分野をアピールする際に「医薬全般」の様にざっくりした情報だとコーディネーターの目にとまりにくいので、より詳細に「特に翻訳経験が多い文書」や「医薬や医療機器の中でも特に得意な領域」などを記載していただくと、依頼しやすくなります。
ちなみにMTSの場合、CMC、照会事項・機構相談、材料評価・ベンチテスト、歯科関連、マーケティング、契約書、字幕翻訳(←近年受注数が伸びています)の層が薄いので、これら分野が得意であれば活躍の場は必ずあります。

【学歴や職歴などの略歴】

メディカルの分野を取り扱うMTSの場合、医療業界(製薬会社での勤務経験や、医師・薬剤師・研究員など)での勤務経験は強みとなります。クライアントがその様な経験のある翻訳者さんを指定する場合があったり、実務を通して得られた背景知識に基づいて翻訳ができることの証明になるからです。一方で特に医療業界での勤務経験がなくとも、どの様な職業経験や学習経験があって、どんな知識を持っているのかを知れる箇所なので、できる限り詳細に記入しておくと良いと思います。
MTSの場合、クライアントからメディカル分野以外(IT、保険、学校のパンフレット、化粧品広告、社内報、経済誌の記事など)も様々な翻訳の相談をいただくことがあり、その際は対応可能な翻訳者さんがいるかデータベースからキーワード検索して声をかけさせていただく事があります。メディカルと関係ないと思われる情報でもこの学歴や職歴からキーワード検索にヒットすることがあるので、記入できる情報はなるべく盛り込んでおくことをお勧めします。

【自由記入欄】

自由記入欄はその名の通り「自由」なので、定型記入欄と違って「他の翻訳者さんともっとも差別化を図れる入力欄」です。だからこそ、できる限りご自身のアピールしたいポイントを書いておくとコーディネーターの目にとまりやすくなります。
自由記入欄で最も目にするのは自己アピールです。その方の翻訳に対する姿勢や、今後MTSでどの様に業務に携わっていきたいか、活躍したいかなど、記入してくださっているのを見るとその方の雰囲気や熱意が伝わりますし、仕事のパートナーとして安心感もあります。もし専業でなかったり海外在住であれば、自由記入欄に稼働時間や曜日を記載したり、公開スケジュールがあればそのURLをつけてくださるのも嬉しいです。また、翻訳実績についても重要な情報なので、開示できる範囲で記入いただけると有り難いです。特に翻訳者としてある程度経験のある方や複数の翻訳会社で登録のある方については、これまでどんな翻訳依頼が多かったのかが最も気になるところです。(繰り返し依頼されているということは、翻訳会社お墨付きの品質であることが証明されているからです)

情報の更新

もしすでに翻訳会社に提出している情報が何年も前の古いもので、更新しておくべき情報があるのであれば、翻訳会社に申し出ると良いと思います。
MTSでもたまに翻訳者さんから、「こんな活動や勉強をはじめました」「新しく資格を取りました」「最近は他社でこの様な文書の依頼がよくあるので、MTSさんでも需要があれば是非御相談ください」と共有していただくことがあります。その翻訳者さんの活躍の場が増えることは翻訳会社にとって嬉しいことですし、前回の依頼からご無沙汰になっているようであれば次の依頼を引き寄せるチャンスにもなるはずです。

おわりに

私自身は時間に余裕があるときに、翻訳者さんから提出いただいた登録票よく眺めています。古くからお付き合いのある方でも、見るたびに「こんな知識や経験もあるんだな」と新しい発見がありますし、登録間もない方であれば「次にこの翻訳者さんの得意分野がきたら依頼してみよう」と日々考え、次に受注する案件のための準備をしながら業務に取り組んでいます。コーディネーターが翻訳を依頼する際には、品質(トライアル時の評価やこれまでの実績)も大事なポイントですが、登録票の情報も必ず参考にしているので、取引先の翻訳会社がどんな情報に注目しているのか知っておくと、より依頼を引き寄せやすくなると思います。

最後までお読みいただき有難うございました。