翻訳クイズ#15

医療翻訳クイズ

新年あけましておめでとうございます。
早速ですが、翻訳クイズ第15回をお送りします。
 
仕事柄、「翻訳」や「治験」という言葉に反応しがちなのですが、先日インターネットで『職業治験』という本を見つけ、衝動的に購入してしまいました。大まかな内容は、「治験で1000万円稼いだ男の病的な日々」というサブタイトルの通り、負担軽減費(治験の参加者に対して、支払われる謝礼金や報酬)を目当てに積極的に治験に参加してきた男性の体験記です。治験実施の実態に触れられる本という点では貴重だと思うので、ご興味のある方は読んでみるのもおすすめです。
 
さて、次の英日対訳文から修正すべき点を見つけてくださいね。

問題文

原文:本治験にご参加いただいている期間は、薬剤、入院、病院への移動にかかる費用をすべて治験依頼者が負担いたします。ただし、差額ベッド代が生じた場合は、ご自身でご負担いただく必要があるのでご注意ください。

 
訳文:During your participation in this trial, all the expenses of the medicines, hospitalization, and travelling to the hospital will be born by the sponsor. Note, however, that, you have to pay any charges for special beds yourself.
 
 
 
 
 
 

解説

いかがだったでしょうか。
修正していただきたかったのは以下の下線部です。

修正例:During your participation in this trial, all the expenses of the medicines, hospitalization, and travelling to the hospital will be borne by the sponsor. Note, however, that, you have to pay any charges for special beds yourself.
 

費用を「負担する」という意味の動詞bearは、治験の同意説明文書や契約書でよく見ますが、その変化形は「bear-bore-born/borne」となっており、過去分詞がbornとborneの2種類あります。このうちbornは、bear a childのように「何かを産む」という意味でbearを用いる場合のみで、この例文のように「負担する」という意味や、「(物理的に)担う、持つ」、「耐える」などの意味で用いられる場合は、過去分詞はborneを用います。
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上記も修正が必要なのは本当ですが、クイズの解答としてこちらはオトリです。ご容赦ください。本命として修正してほしかったのは次の下線部です。
 

真の修正例:During your participation in this trial, all the expenses of the medicines, hospitalization, and travelling to the hospital will be borne by the sponsor. Note, however, that, you have to pay any private or semi-private room charges yourself.
 

「差額ベッド代」とは、入院するときに大部屋ではなく、個室(private room)や少人数の部屋(semi-private room)を自ら希望した場合にかかる費用のことです。正式には「特別療養環境室料」という名称があります。
この「差額ベッド代」という用語は、英語での定訳がはっきりと決まっていないのですが、冒頭の訳文のように「特別=special」、「ベッド=bed」でspecial bedとすると、a special bed that uses air to redistribute pressure(空気を利用して体圧を分散させる特別なベッド)のように、「特別な(機能を持つ)ベッド」の意味になります。

英語でspecial room(s)とすると 
COVID-positive patients have to be put in special rooms with negative airflow
新型コロナウイルス陽性の患者は、室内の空気が外部に流出しないよう気圧を低くした特別な部屋に収容する必要がある。

のように、収容人数の多寡ではなく、部屋の性質や機能が特別であるという趣旨になるのが一般的です。ただ、日本国内に限ると「差額ベッド代(特別療養環境室料)」の訳語としてspecial room chargesが用いられる機会が多いので、「うちの会社/病院では、これまでずっとspecial roomとしてきたから、今後もspecial roomにしてください」とお客さんからリクエストを頂く可能性はあるので、その場合は柔軟に対応してください。

「ここを詳しく知りたい」「ここも修正できるよ」など、ご質問やご指摘がありましたらコメントにてお知らせください。
 
今回の内容が、皆様の翻訳の際にお役に立てば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

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