無生物主語を訳す際の注意点

医療翻訳用語の基礎

「無生物主語」で検索をかけると、使役動詞の場合はどうのこうのなどと複雑な説明が多く出てきます。細かい英文法の話は、そうしたページにお任せして、今回は無生物主語を逐語的に翻訳して不自然な日本語になってしまう事例について紹介します。

はじめに

無生物主語とは、“The study results showed the efficacy of the ABC drug”のように、生きていないもの(ここでは“results”)が主語となって何らかの動作(ここでは“show”)を行ったように表現されている英文をいいますが、日本語では無生物を主語に置いた表現をあまり用いないため、そのまま日本語にすると不自然になることが多いです。
例えば、“Covid-19 caused us to postpone Tokyo 2020 Olympics”を「新型コロナウイルス感染症が私達に東京オリンピックを延期させた」と直訳する方はあまりいないと思います。

とはいえ、仕事で翻訳物をみていると、無生物が主語になっている英文がそのまま直訳されて、不自然な日本語になっていることがしばしばあります。

不自然な訳例1

“Several meta-analyses have reported similar findings.”
複数のメタアナリシスが同様の結果を報告している。
→意味は通じますがメタアナリシスが能動的に所見を報告しているような文になっており不自然です。

(修正例)
複数のメタアナリシスで同様の結果が報告されている

▼不自然な日本語訳例2

“This study assessed the role of omega-3 fatty acids in patients with esophageal cancer.”
本試験は、食道癌患者におけるオメガ3脂肪酸の役割を評価しました。
→「本試験」が「評価」の動作主であるかのような文になってしまっています。

(修正例)
本試験では、食道癌患者におけるオメガ3脂肪酸の役割を評価しました。

最後に

“The book changed me.”で「その本が私を変えた」のように、逐語訳で自然な場合もありますが、無生物主語の文を翻訳される際は、訳文(日本語)を読み返して、違和感がないかご確認いただければと思います。
最後までお読みいただき有難うございました。

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