まるで暗号!?略語の理解~投与方法~
突然ですが、次の英語がどんなことを意味しているか、具体的なイメージが湧きますか。
100 mg/kg, i.v., d1, q3w
ミリグラム(mg)や、キログラム(kg)を見て、薬剤の用量や体重を連想できた方は多いかもしれません。しかし、そのあとの「i.v.」、「d1」「q3w」はどうでしょうか。メディカル翻訳に携わる前の私なら、「d1」の数字の「1」を「リットル(l)」と勘違いして「デシリットル(dl)?」と考えてしまっていたかもしれません。
メディカル文書を読むなかで、皆さんも上記のような一見すると何かの暗号のような略語の羅列に遭遇したことがあるでしょう。上記の「暗号」をみて、すぐにイメージできた方も、いま一度、略語の意味と訳し方を整理してみませんか。
薬剤の投与方法で用いられる略語
冒頭の「100 mg/kg, i.v., d1, q3w」は、治験デザインや投与方法を説明する際に用いられる略語で、治験実施計画書(治験の目的や治験の方法を記載した文書)、医学論文や症例報告で見ることがあります。略語を使用することで、特に図表中では簡潔に表記することができ、すっきりとした体裁で読みやすくできるメリットがあります。
それでは、一つひとつ上記の「暗号」を詳しく確認するとともに、関連する略語を整理していきましょう。
<投与用量を示す略語(単位)>
100 mg/kgは、英語の表記にすると「100 mg per kg(1 kgにつき100 mg)」となります。
つまり、体重1 kg当たりの医薬品成分の重量100 mgを表しています。さらに時間を示す「分(min)」がついた場合、静脈内投与など時間をかけて投与を行う際に、1分当たりに投与する量(mg/kg)を表します(例:100 mg/kg/min)。
<投与経路を示す略語>
i.v.は、「静脈内(intravenous)」を意味する略語で、静脈注射(intravenous injection)のことです。薬剤を直接静脈に注入する方法で、経口や皮下投与よりも即効性の高い投与経路です。
そのほかの代表的な投与経路の略語をみてみましょう。
- p.o.「経口(ラテン語でper os)」経口投与
口から服用する方法で、その簡便さから最も用いられることの多い投与経路です。ただし、消化管内の食べ物や併用薬の有無によって薬剤の吸収率や吸収速度に影響が生じることがあるため、服用時間や併用してはいけない薬に注意する必要があります。 - s.c.「皮下(subcutaneous)」皮下投与
薬剤を皮膚の直下にある脂肪組織に注入します。主に、経口摂取が不可能である場合、消化管粘膜の刺激を避ける必要がある場合、薬剤が消化液の影響を受ける場合などに用いられる投与経路です。
<投与サイクルを示す略語>
d1はDay 1「第1日目」を表す略語です。投与サイクル(投与クール)とは、特に抗がん剤などの薬物療法で、投与期間と休薬期間を組み合わせた一連の治療周期を指します。例えば、d1-7と記載されていた場合は「投与サイクルのうちの第1日目から第7日目まで投与」という意味になります。
<投与頻度を示す略語>
q3wは、q=「~ごと(ラテン語でquaque)」と3w=「3週間(英語で3 weeks)」を合わせたものです(まさかラテン語と英語の組み合わせがあるとは、驚きですね…!)。
そのほかに何回投薬するのかを示す、代表的な略語を紹介します。
- q.d.=「1日1回投与(ラテン語でquaque die)」※s.i.d.(ラテン語でsemel in die)と表記されることもあります。
- b.i.d=「1日2回投与(ラテン語でbis in die)」
- t.i.d=「1日3回投与(ラテン語でter in die)
それぞれの意味を理解したところで、冒頭の「暗号」をもう一度考えてみてください。
100 mg/kg, i.v., d1, q3w
=1回100 mg/kgの薬剤を、投与サイクル第1日目に静脈投与(3週間に1回投与)
「暗号」のように見えていた略語が、解けてきましたか?
おわりに
まだメディカル翻訳に携わって間もない頃、あまりの略語の多さに圧倒されたことを覚えています。今回ご紹介した「投与方法」に関する略語以外でも、さまざまな場面で略語が登場しますが、元はどんな単語なのだろうか、どんな意味なのかを探っていくと、より理解を深めることができるのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。