翻訳クイズ和訳編「略語の罠」見破れますか?
今回は、「和訳時に引っ掛かりやすい英語表現」をクイズ形式でお届けします。
それでは、英日の対訳文を読んで、修正すべき点を見つけてみてくださいね。
問題文
原文:This study used MACE as the primary endpoint. The MACE rate at 6 months was significantly higher in the ABC group.
※ABCは治験薬の名称です。
訳文:本試験ではMACEを主要評価項目に設定した。6ヵ月後のMACE率はABC群で優位に高かった。
解説
いかがだったでしょうか。
修正していただきたかったのは、以下の下線部です。
修正例:本試験ではMACEを主要評価項目に設定した。6ヵ月後のMACE率はABC群で有意に高かった。
この文のsignificantlyは、より丁寧に書けばstatistically significantlyで、「統計学的有意性」を意味しています。ですので「優位」ではなく「有意」とするのが適切です。
…
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上記の修正をして「よし、今回は簡単だったぞ」と思われた方、もちろん「優位⇒有意」の修正も必要ですが、そちらはオトリです。ご容赦ください。もう一か所修正していただきたい箇所は以下のとおりです。
真の修正例:本試験ではMACEを主要評価項目に設定した。6ヵ月後のMACE発生率はABC群で有意に高かった。
MACEは「MACE」、rateは「率」ですが、それをくっつけて「MACE率」と訳してしまいがちです。しかしMACEを「脳卒中」と普通の単語に置き換えてみれば、「脳卒中率」のようなおかしな日本語になっていることが分かると思います(「死亡率」のようなごく限られた例外もありますが、「事象名+率」は日本語として不適当です)。
実際に訳文をチェックしていて遭遇した別の例として、HCV patientsという原文に対する訳が「HCV患者」となっていることがありました。HCVはhepatitis-C virus、すなわちC型肝炎ウイルスなので「HCV患者」は「C型肝炎ウイルス患者」になってしまいます。これは「HCV感染者、HCV感染患者」とすると良いでしょう。
翻訳をしていると、どうしても単語レベルで言葉を置いてしまうことがありますが、略語・頭字語の前後では特にその傾向が強く見られます。「優位」のおとりに引っ掛かった方もそうでない方も、この「略語の罠」に陥ることがないようご注意ください。
なお、冒頭の問題文に出てきたMACEはmajor adverse cardiac eventの略で、日本語では「主要心血管イベント」又は「主要有害心血管イベント」と訳されることが多いです。心血管系の原因による死亡と脳卒中、心筋梗塞などから成る複合評価項目で(具体的な組合わせは試験によって異なります)、心血管系の臨床試験で評価項目としてよく用いられるので、こちらも覚えておいてください。
「ここがよくわからない」「ほかにも修正点があるよ」など、ご質問やご指摘がありましたらコメントにてお知らせください。
今回の内容が、皆様の翻訳の際にお役に立てば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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