改訂版翻訳の作り方
こんにちは、MTSコーディネーターのSです。
今回はコーディネーターの目線から、翻訳者の皆さんにぜひとも知っておいていただきたい「改訂版翻訳の作り方」をご紹介させていただきます!改訂版翻訳を作れる訳者さまは、コーディネーターにとって非常に有難い存在です。
「改訂版翻訳」とは?
治験にはさまざまな文書が使用されます。治験実施計画書、治験薬概要書をはじめとして、同意説明文書、治験薬管理手順書、被験者日誌、患者カード、治験統一書式…パッと思いつく限りでもこんなに出てきます。これらの文書はいずれも一旦作成したら終わりではなく、何度も変更が加えられます。例えば、「治験の途中で目標被験者数が増えた」、「同薬剤の別治験の追加情報が得られた」、「ワクチン接種による注意事項が必要になった」等、治験が進んでいく過程で変化した状況をこれらの文書に盛り込むのです。また、単純な誤記の修正や、文意をより分かりやすくするための文言の明確化なんていうのも行われます。これが「改訂版」です。急を要する変化に対応するために随時「改訂」が行われることもありますが、それ以外では1年に1回程度の頻度で見直し・改訂が行われることが多いです。
改訂版翻訳の作り方
まずは実際に改訂版を作成する際の手順をご説明していきます。ただし、会社ごと、案件ごとにいろいろなやり方があるので、今回ご紹介するのはあくまで「MTSでの基本の作り方」とご理解いただければと思います。
1) 改訂版作りの原稿は、①旧版の原文と新版の原文をWordの比較機能で比較し、差分箇所が示された変更履歴付きファイル又は②クライアント様が「変更履歴」をONにして原文の改訂を行った変更履歴付きファイルです。
2) この原文の変更履歴付きファイルの変更履歴の箇所を、旧版の訳文ファイルに同様に再現することが改訂版作りの目的です。
3) 作業前にまずWordの機能で「変更履歴」をONにします。[校閲]タブ>[変更履歴の記録]をクリックしてください。
4) 改訂版は通常、変更履歴を付けたまま、クライアント様に納品します。これは訳文の変更箇所をクライアント様がレビューしやすくするためですが、その際、変更履歴に表示される作業者名が「MTS」となるよう、Wordの設定を変更していただきます。
5) 設定が終わったら、さあ、作業開始です。原則として削除されている箇所を削除し、新たに追加されている箇所を訳出して追加します。その他の箇所は変更しないようにしてください。これは、旧版訳文はすでにクライアント様のレビューが終わり固定されているためです。
6) 実際の例を見てみましょう。治験薬管理手順書(pharmacy manual)の改訂和訳の一部です。旧版の説明をより明確にするため、以下のような改訂が原文に行われました。
旧版原文「The site will need to check the yes or no for temperature deviation in the packing list.」
→新版原文「The site will need to put a check mark (yes or no) for temperature deviation in the packing list.」
変更箇所は下線部のみです。これを訳文に反映させます。
旧版訳文「治験実施医療機関は、梱包明細書の温度逸脱の有無にチェックを入れる。」
→新版訳文「治験実施医療機関は、梱包明細書の温度逸脱の欄にチェック(あり又はなし)を入れる。」
下線部のみに変更を行い、その他の箇所は旧版の訳文のままとしています。
7) 旧版で「下手な」訳文を見つけてしまった場合、より良い文に変えたくなりますよね?その気持ちよくわかります!翻訳のように言葉を扱う仕事をしていると、読みにくい文章は耐え難く、気持ちが悪いものだと思います。しかし、そこをぐっとこらえて、改訂が行われていない箇所は旧版の訳文のままとしてください。ただし、旧版の訳文に「誤り」があった場合は対応が必要です。その場合、訳文を直接修正してしまうのではなく、誤りがある旨をコメントにてお知らせください。
8) 改訂作業においても、通常の翻訳と同じくレイアウト作業(例えばスタイルの設定、ハイパーリンクの設定、画像の張替え等)はレイアウト担当者が行います。ただし、簡単なもの(表の挿入、簡単な画像の貼り換え)はやっていただけると大変助かります!!やっていただけるか否かは事前にお伺いします。またもちろんその分の作業料金はお支払いします。
より求められるレイアウト能力
上記8)でお話した通り、改訂作業では簡単なレイアウト作業をやっていただけるととてもとても助かるのです。そのため、Wordの基本的なレイアウト方法はぜひ知っておいていただければと思います。本ブログの「上書き翻訳のテクニック」シリーズの記事がお役に立つと思います!ぜひお読みください!
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https://blog.m-t-s.jp/overwrite-traslate-2/
翻訳者さまにとっての改訂作業のメリット&デメリット
よく英会話で「I have bad news and good news. Which one do you want to hear first?」って聞きますよね。私はぜ~ったい悪いニュースを先に知りたい派です。皆さんはどちらですか?
話が逸れましたが、まずは皆さんが改訂作業を受けるときのデメリットを洗いだしてみました。
- 通常の翻訳より純粋な翻訳作業には時間がかかる:
原稿で改訂箇所を見つけ、それを訳文箇所で同様に再現する作業を行わなければなりませんし、統一のため、単語1つでも旧版の訳文で使われている訳語を調べる手間がかかります。
- 旧版に準拠しなければならないため自由に訳せない:
たとえ気持ち悪い訳文でもそれを基にした訳文としなければなりません。
続いてメリットです。
- すでに実際に使用されている旧版文書があるため、それを読むと勉強になる:
これは大きなメリットかと個人的には思います。特に治験実施計画書や治験薬概要書などの重要な文書の場合、高品質が求められるため、実は丸々新規で翻訳をお願いできる翻訳者さんは限られています。しかしながら改訂翻訳は分量も少なくなり、上記でご説明したような作業内容となるため、経験が少なくても、丁寧に作業をしてくれる方やきちんと旧版に準拠してくれる方、レイアウト作業が得意な方であればお願いできます。改訂作業を繰り返すことで、その種の文書に慣れ、実績を積むことで、最終的には丸々新規で翻訳をすることができるようになるかと思います。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回の「改訂版翻訳の作り方」が、少しでも皆さんのお役に立ったならとても嬉しいです。
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