その動詞、適切な言い回しですか?文脈に応じた動詞の訳し分け
ある一つの単語、たとえばoccurという動詞を聞いてどのような意味が思い浮かびますか。「起こる」「生じる」「現れる」…。辞書で引いてみると、1語の単語でも何通りもの訳し方が出てきます。メディカル文書で使用される動詞の訳し方には専門性が求められるものも多く、しっかり調査して文章の前後で自然な表現になっているか、常に意識して翻訳することが大切です。
「いつもみているお馴染みの動詞」で、訳に工夫が必要な動詞を紹介していきます。
① increase
increase in blood pressure(血圧が上昇する)
increase in size of lesions(病変が増大する)
increase in heart rate(心拍数が増加する)
訳し分けのポイント💡
血圧や検査値などの場合は「上昇」、腫瘍や病変の大きさを表す場合は「増大」など区別することができます。3つ目の「心拍数の増加」は、一見すると「心拍数の上昇」でも違和感がないように感じるかもしれません。しかし、心拍数は「1分間に〇回」というように、回数で表現するため「上昇」よりも「増加」の方が自然な表現になります(例:呼吸数の増加、発作回数の増加、死亡例数の増加)。
<ミニクイズ>
以下の英文で使用されているincreaseの意味を考えてみましょう。
Increased liver enzyme was observed in the patient.
→liver enzyme(肝酵素)は数値なので、この場合は「上昇」が自然な表現になりますね。
(訳例:患者に肝酵素値の上昇が認められた。)
② develop
develop pneumonia after surgery(術後に肺炎を発症する)
develop skin rash during treatment(治療中に発疹が出現する)
develop into chronic renal failure(慢性腎不全に進行する)
develop a new vaccine(新しいワクチンを開発する)
訳し分けのポイント💡
症状や疾患を伴う場合は「発症する、出現する」、病態の変化(とくに悪化)を表す場合はintoを付けて「~に進行する、移行する」という訳し分けができます。研究や企業活動では「開発する」という意味で用いられることが多いですね。
<ミニクイズ>
以下の英文で使用されているdevelopの意味を考えてみましょう。
Several patients developed serious adverse events.
→serious adverse event(重篤な有害事象)など事象、副作用、合併症の文脈では「発現する」が訳文に落とし込みやすいです。
(訳例:数例の患者に重篤な有害事象が発現した。)
③ observe
observe cancer in the right lung(右肺にがんを認める)
observe cells under a microscope(細胞を顕微鏡下で観察する)
訳し分けのポイント💡
事象が出現した場合は、「認められた」と訳されることが多いですが「みられた」や「確認された」と表現している医学文書や論文もみられます。物理的に患者や経過を見守る場合は「観察する」という訳し方がしっくりきますね。
<ミニクイズ>
以下の英文で使用されているobserveの意味を考えてみましょう。
Gross lesions were observed at necropsy.
→necropsy(剖検)などサンプルや組織などの文脈で用いられる際には「観察する」が当てはまります。
(訳例:剖検で肉眼的病変が観察された。)
おわりに
このように単語一つをとっても、様々な意味があることがお分かりになったかと思います。文脈に合わせていかに自然に処理できるかというのは、翻訳の難しい要素でもありますが、品質に大きく関わってくる重要な部分です。判断に迷う場面では、インターネットの調査で検索機能を活用したり、検索結果の件数を比較したりするなど、どの表現が文脈にマッチするのか検討してみてください。
今回の記事を読まれて、動詞の訳し分けを意識して翻訳してみよう、と思っていただければ幸いです。
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