このメディカル用語、どうやって訳す?学んでおきたい「翻訳しづらい用語」
「英語でよく見かけるこの用語、日本語ではどう訳したらいいのだろう?」
翻訳に携わる人なら、一度はこんな場面に遭遇したことがあるかと思います。
「日本語で一般的に用いるこのカタカナ用語は、英語でも直訳しで大丈夫?」
一部の用語は日本語のカタカナ用語と英語がそのまま対応する場合もありますが、それぞれの文書に適切な訳し方や、日本語圏または英語圏で特有の表現方法があります。
これから出題するクイズを通して、「翻訳しづらい用語」を見ていきましょう。
クイズその①
次の日本語を英語に翻訳してみましょう。
国外の規制当局が、あなたのカルテや検査結果を確認することがあります。
ここで注目したい用語は、日本語でよく見聞きする「カルテ」という用語です。
メディカル用語では、ドイツ語が由来の用語が多く存在し、この「カルテ」もドイツ語の一つで「Karte」と綴ります。英語の「カード(card)」に相当する単語です。検査記録、画像などを含めたカルテ全体を「診療記録」や「診療録」と呼びます。そして英語圏でこの診療記録に相当するのはmedical recordまたはmedical chartになります。
翻訳例は以下のとおりです。
Foreign regulatory authorities may have access to your medical records and test results.
クイズその②
次の日本語を英語に翻訳してみましょう。
本機器は、医療従事者が使用することを意図したものです。
「医療従事者」という用語は、単にmedical staffやhealthcare providerと表現できそうですが、メディカル文書において一般的に使用される用語が存在します。HCPとも表現されるhealthcare professionalを用いると適切に表現することができます。
翻訳例は以下のとおりです。
This device is intended to be used by healthcare professionals (HCPs).
クイズその③
次の英語を日本語に翻訳してみましょう。
Please keep this copied patient information sheet and consent form in a safe place.
この英語の文章を翻訳するには、治験に関する知識が少し必要になってきます。治験に参加するためには、担当医師が患者さんに説明文書を用いて治験の内容を説明し、患者さんが十分に理解したうえで同意文書に署名しなければなりません。この説明文書を英語では、patient information (sheet)と表現します。
そのまま「患者情報」と訳してしまわないよう注意が必要です。
翻訳例は以下のとおりです。
この患者さん向け同意・説明文書の写しは、大切に保管してください。
※patientは「患者さん向け」などと訳出すると収まりが良くなりますね。
クイズその④
次の英語を日本語に翻訳してみましょう。
Graves’ disease is more common in women than men.
ここで翻訳が難しいのはGraves’ diseaseです。そのまま翻訳すれば「グレーブス病」となり間違いではありませんが、あまり馴染みのない疾患名ではないでしょうか。
日本語で一般的に用いられる疾患名ではバセドウ病となります。では、なぜこのように「グレーブス」と「バセドウ」と異なる名称が付いているのかというと、日本と欧米の医学史の違いにあります。ドイツ医学の影響を受けた日本では、ドイツの医師名「Basedow(バセドウ)」から由来した名称を用いますが、欧米ではアイルランド人医師名にちなんで「Graves(グレーブス)」と表現するのが一般的です。
翻訳例は以下のとおりです。
バセドウ病は、男性よりも女性に多く認められます。
おわりに
私たちが頻繁に見聞きするメディカル用語は、必ずしも英語に共通するかというと、そうではないことがお分かりになるかと思います。さまざまな言葉は、使用される言語圏での文化やシステムのもとで異なってきます。ややこしくて正しく使い分けるのは大変!と感じる一方で、用語の背景を知ることで自然と面白みが出てくるのではないでしょうか。
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