薬ができるまでと発生する翻訳文書~製造後販売編~

医療翻訳情報

今回は「薬ができるまでと発生する翻訳文書」シリーズの最終回です。
前回までに、(1)基礎研究、(2)非臨床試験、(3)臨床試験(治験)、(4)承認申請・製造販売の各段階で発生する文書を紹介してきました。今回は、(5)の製造販売後に発生する文書と、いずれの段階にも分類しにくい文書をご紹介します。

製造販売後調査とは

薬や医療機器は、製造販売後も安全性や使用法を評価が求められます。その一環として行われるのが製造販売後臨床試験(第IV相試験)で、通常の診療では得ることができない有効性及び安全性に関する情報を収集し、PMDAに報告します。
また、日常の診療において、治験のように薬を使用する患者の条件を限定せず、副作用による疾病等の発現状況や、品質、有効性及び安全性に関する情報の収集を行う「使用成績調査」や、特定の患者層を対象とした「特定使用成績調査」も実施されます。これらの調査は治験と同様に、GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)に加えGPSP(医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令)にも従う必要があります。

それではこの段階で発生する文書をご紹介します。

製造販売後に発生する文書

臨床試験実施計画書(Clinical Study Protocol)&臨床試験総括報告書(Clinical Study Report:CSR):治験における「治験実施計画書」「治験総括報告書」に相当する文書です。「治験」は承認申請を目的とする臨床試験に限定されるため、製造販売後の文書では用いず、Investigatorも「治験責任医師」ではなく「試験責任医師」と訳されます。内容は治験のプロトコールやCSRと重複するため、詳細は臨床試験(治験)編をご参照ください。
 
副作用報告:日本では、治験中および製造販売後に発生した副作用や不具合等はPMDAへの報告が義務付けられています。海外でも同様で、通常はCIOMS(「シオムス」と読みます)フォームと呼ばれる定型様式が使用されます。製薬会社はCIOMSフォームにまとめ和訳しPMDAへ報告します。また、日本国外を拠点とする外資系会社は、国内での副作用を英訳して海外本社に報告を行います。したがって、和訳と英訳両方が発生します。納期は当日~翌日納期と短めです。なお、このCIOMSフォームに記載される副作用の名称はMedDRA(国際医薬用語集)に従う必要があります。
 
定期的安全性最新報告(Periodic Safety Update Report:PSUR):臨床試験編でご紹介したDSUR(治験安全性最新報告)の承認済み製品版で、ICHの合意に基づき特定期間中の世界の安全性情報をまとめて規制当局に提出されます。英訳と和訳両方が発生し、納期は普通またはやや急ぎです。なお、副作用の名称はMedDRAに準拠します。
※MedDRAについては別の回で詳しくご紹介します。

その他の文書

標準作業手順書/標準操作手順書(Standard Operating Procedures:SOP):SOPは、薬や医療機器に限らず、作業手順をまとめた文書で、薬の製造手順や医療機器で苦情が発生した場合の処理手順、製薬会社が翻訳手配をする際など多岐にわたります。和訳、英訳の両方が発生し、納期は比較的余裕があります。
 
社内・社外研修用資料:営業用研修や社内規則を周知させるための資料ほか、社外向けに治験関係者や患者向けの資料があります。特に治験研修用資料の翻訳依頼が多く「治験開始前訪問(PSV)」や「治験開始時訪問(SIV)」の訪問時(治験実施医療機関に治験依頼者やCROのモニターが訪れること)に使用されます。
eラーニング資料はグローバルのものを日本で使えるようにする目的のため、和訳がほとんどです。納期は内容にもよりますが、治験関連はタイトな傾向があります。
 
会社紹介:製薬会社や医療機器メーカーの紹介を目的とした資料で、ウェブサイトや動画など形式は様々です。特に動画翻訳の依頼が増加中で、通常の医療翻訳とは異なるスキルが求められることもあります。和訳も英訳両方発生しますが、納期は比較的ゆるやかです。

おわりに

これで「薬ができるまでと発生する翻訳文書」シリーズが終了しました。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
医療翻訳の文書の種類について少しでもご参考になったようでしたら、嬉しいです。

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