薬ができるまでに発生する翻訳文書 ~臨床試験(治験)編~

医療翻訳情報

こんにちは。
今回は、「薬ができるまでに発生する翻訳文書~導入編~」に続き、第3段階「臨床試験(治験)」で発生する翻訳文書についてご紹介します。
臨床試験の基本的な流れは、導入編をご覧ください。

導入編はこちら
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https://blog.m-t-s.jp/drug-development-documents/

■(3)臨床試験(治験)段階で発生する文書

前の段階に比べて、第3段階では多くの翻訳文書が発生します。代表的な文書は以下の通りです。
 
治験実施計画書(Clinical Study Protocol, Study Protocolなど)<プロトコール>:治験の内容を詳細に記した文書で、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP省令)により記載項目が定められています。
英文のグローバル版を日本での治験現場向けに和訳することが多く、200ページ前後と分量が多いため、翻訳には約2ヵ月要します。納期によっては、複数名で分担し対応することもあります。
翻訳後はクライアントによる徹底的な確認・修正が入り、年1回以上改訂が必須なため差分翻訳も発生します。
 
治験総括報告書(Clinical Study Report)<CSR>:治験の結果をまとめた文書でプロトコールと対になるものです。ICHガイドラインE3に従って作成され、治験実施計画書と同様に分量が多くなります。
 
治験薬概要書(Investigator’s Brochure)<IB>:記載すべき事項はGCP省令で定められています。治験実施計画書と同じく基本的に和訳です。この文書も年1回以上の改訂が求められ、差分翻訳も頻繁に発生します。

 
治験薬管理手順書(Pharmacy Manual)<ファーマシーマニュアル>:治験薬の保管や取り扱い方をまとめたマニュアルで、薬剤師や治験スタッフを対象とした実務的な文章です。和訳対応が中心です。
 
同意説明文書(Informed Consent Form)<ICF>:治験参加者に内容等を説明し、同意を得るための文書でGCP省令に基づいて作成されます。
1つの治験で、試験本体用、小児参加者用、治験参加者の妊娠したパートナー向けなどが作成され、本体用は分量が多く、追加検査用は少なめです。
和訳と英訳=2:8ほどの割合で発生します。
・和訳:グローバル版を日本向けに記載した「マスター版」です。医療従事者ではない一般の方向けの文書になるので、読みやすい文章にする必要があります。
・英訳:多くの場合、和訳したマスター版ではなく、各治験実施医療機関の日本語テンプレートに組み込んで文書を英訳します。これによりグローバル(本社)が内容を確認できるようにしています。
 
症例報告書(Case Report Form)<CRF>:被験者の検査データや副作用など基本的情報を治験実施医療機関が治験依頼者に提出するためのフォームです。治験で得られた直接の情報である「原資料」にあたります。現在は電子形式(eCRF)が主流のため、CRF様式よりも以下の「eCRF入力ガイドライン」を翻訳することが多くなっています。
 
eCRF入力ガイドライン(electronic Case Report Form Completion Guidelines)<eCCG>:オンラインで記入するeCRFの操作方法をまとめたマニュアルです。Googleに新規アカウント登録するときに見るような簡易マニュアルに近い内容です。翻訳は和訳のみで難易度は高くないものの、治験の背景知識が求められます。また、実務文書になるのでより分かりやすい日本語訳が必要です。

治験ニュースレター:治験依頼者が治験実施医療機関向けに定期的に発行する「お便り」です。治験の進捗情報、変更のお知らせ、締め切りのリマインドなどが記載されます。「お便り」なので、ポップなデザインやイラストが使われることも多く、自然な意訳が求められます。翻訳は和訳のみです。
 
治験安全性最新報告(Development Safety Update Report)<DSUR>:治験薬の安全性に関する年次報告書です。治験ごとではなく、有効成分ごとに1つ作成されます。被験者数、副作用の発生状況、リスクベネフィットの評価など、安全性に関する情報が含まれます。日本で作成されたDSURを海外で提出・閲覧することが目的で、英訳が求められることがあります。
 
治験統一書式(書式):治験に関する様々な情報(治験責任医師や治験分担医師の情報、治験審査委員会の審査内容、実施状況の報告など)を記載するための文書です。書式の雛厚生労働省のウェブサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/touitsu2.html)からダウンロードできます。日本国内で使用される文書のため通常は日本語のみですが、これをグローバルで確認できるようにするため、英訳が発生します。
 
治験届(Clinical Trial Notification)<CTN>:治験依頼者が、治験開始前にPMDAへ提出する計画届出書です。記載すべき内容は厚生労働省からの通知(薬生薬審発0831第10号)に基づいています。主にグローバルでの確認を目的としているため、発生するのは英訳のみです。

おわりに

上記に記載したもの以外にNote to Fileや被験者カードや被験者日誌などの翻訳も発生します。
次回は「(4)承認申請・製造販売」で発生する翻訳文書をご紹介していきます。
今回の内容が、皆様のお役に立てば幸いです。

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