翻訳の国際規格「ISO 17100」って知っていますか?

医療翻訳情報

皆さん、ISO規格ってご存知ですか?
工場の建物などに「ISO○○○○取得」と書いてあるのをご覧になったことがあるかもしれませんが、ISOとはInternational Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称で、国際的な規格を制定している非政府機関です。ISOが制定した規格をISO規格と言います。

ISO / JIS

ISO規格には様々なものがあり、工場の建物などによく書いてあるのはISO 14001(環境マネジメントシステム)やISO 9001(品質マネジメントシステム)でしょうか?また、ISO 10555(血管内カテーテル)やISO 13485(医療機器の品質マネジメントシステム)などはMTSの取り扱う医療翻訳でも時々出てきます。

ちなみに、ISOを日本国内で使用しやすいように邦訳して日本の国家規格として発行したものがJISとなります。JIS規格は皆さん「一度は聞いたことあるな」と思われるでしょう。

翻訳に関するISO 17100

ISO規格はネジ1本からマネジメントシステムまで実に幅広い範囲の「モノ」や「コト」に対して制定されていますが、実は翻訳サービスに関しても規格があるのです。それがISO 17100です。2015年に制定されました(わりと新しめの規格ですね)。MTSも2016年にこの規格の認証を取得しました。ISO 17001では、翻訳サービス提供者(MTSのような翻訳会社等)が満たすべき、プロセスや資源などに関する要求事項が定められています。今回はこのISO 17100について、皆さんが一番ご興味をお持ちであろう「翻訳」の部分に絞って、ご紹介させていただきます。

翻訳者の専門的力量

ISO 17100で求められている翻訳者の力量は以下のものです。

1. 翻訳に関する力量:翻訳する能力ですね。これは言わずもがなですが、それ以外にも定められた仕様に従う能力もこれに含まれます。

2. 原文言語、訳文言語及びテキスト形成に関する力量:原文言語を理解する能力と、訳文言語を流暢に使用できる能力です。原文言語と訳文言語では、求められる能力の水準に差がありますね。ISO 17100では、原文言語よりも訳文言語について、より高い能力が必要とされています。

3. 調査、情報取得及び処理に関する力量:調べる能力、検索する能力、そしてそれを適切に処理する能力です。

4. 文化に関する力量:原文言語と訳文言語の両方について言語的、文化的、地理的慣習に関する情報を活用する能力です。

5. 技術に関する力量:翻訳プロセスを支援するツール(CAT)やITシステム等を使用して翻訳作業を行うために必要な知識、能力及び技能です。

6. ドメインに関する力量:「ドメイン」=「分野」に関する力量です。MTSでしたら医療分野ですね。原文言語の内容を理解し、それを適切なスタイルや専門用語を使用して、訳文言語で再現する能力が必要とされています。

「翻訳に必要な力量」と聞いて、1や6はパッと思いつくものですが、3や5のように、翻訳そのものではなく、翻訳の周辺作業に関する能力も求められているんですね。

翻訳者の資格

ISO 17100では翻訳者が以下の1つ以上の基準を満たし、それを文書化された証拠で示すことが求められています(正確には翻訳サービス提供者がそのような証拠を取得し、資格を判断することが求められています)。

1. 高等教育機関が認定した翻訳の卒業資格

2. 高等教育機関が認定した翻訳以外の卒業資格、及び専業専門家として2年の翻訳経験

3. 専業専門家として5年の翻訳経験

    「石の上にも三年」ならぬ「石の上にも五年」で、少なくとも5年間専業で翻訳をしていると、誰でもISO 17100規格が求める資格を得られるわけです。

    翻訳プロセス

    さて、翻訳者に求められるのは「力量」と「資格」だけではありません。実際の翻訳作業時には以下のことが求められています。

    1. 特定のドメイン(=分野)及びクライアントの専門用語集・参考資料を遵守すること。翻訳時に専門用語の整合性をとること

    2. 訳文言語での意味の正確性

    3. 訳文言語の適切な構文、綴り、句読点、発音区分符号及びその他の表記規約:発音区分符号とは、フランス語やドイツ語などの言語で見る「¨」とか「´」とか「ˆ」です。日本語や英語では該当しないですね。

    4. 語彙的結束性及び言葉遣い:「語彙的結束性」とは「同じ語の繰り返し」や「類義語の使用」「上位語・下位語の使用」「反義語の使用」「コロケーション」を指します。なんだか言語学の授業のようになってきてしまいました…。

    5.独自及び/又はクライアントのスタイルガイドを遵守すること:MTSでも独自のスタイルガイドを制定していますので、翻訳時には遵守をお願いします。

    6.ロケール及び該当する全ての規格:ロケールとは対象読者の言語的、文化的、技術的及び地理的慣習に関する情報や規約のことです。

    7.書式

    8. 訳文言語コンテンツの対象読者及び目的

      おわりに

      最後までお読みいただきありがとうございました。
      今回は規格の説明という性質上、恣意的な解釈を避けようと努めた結果、無機質な文字の羅列が多くなり、読んでいて退屈になってしまったのではないかと心配です。少しでも皆さんのお役に立てる情報があったなら嬉しいです。もし「ISO 17100では翻訳フローはどうなっているの?」とか「校正ではどんな力量が必要なの?」などの疑問や感想等ございましたら、是非お寄せください。

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