翻訳コーディネーターの仕事と翻訳者さんとの関わり

2023年9月25日翻訳会社の「中の人」

皆さんは「翻訳コーディネーター」というお仕事をご存じでしょうか?主な仕事はクライアントから受注した案件を、適切な翻訳者さんへ依頼し、指定の納期までに納めることです。一言で言うと簡単なのですが、翻訳会社におけるコーディネーターの役割は多岐に渡り、翻訳者さんにとって「翻訳会社とのお付き合い」=「翻訳コーディネーターとのお付き合い」になります。

そこで今回は翻訳コーディネーターの仕事と、翻訳者さんとの関わりについて情報発信させていただきます。

翻訳コーディネーターの仕事

翻訳コーディネーターの一日は、クライアントからの問い合わせ管理(見積もり作成、作業内容の打合せや納期交渉、その他要望のヒアリングなど)と、翻訳者さんたちとのやりとり(翻訳者さんへ仕事の打診~作業内容の説明、スケジュール管理、納品確認、問い合わせ対応など)が8割を占めます。残りの2割で翻訳以外の作業者(レイアウトや校正)の手配をしたり、翻訳用のデータを作成したり、納品物の確認をしたり…細々した業務をこなします。

どのコーディネーターもクライアントのニーズに最大限応えるべく、日々奔走。そのニーズにマッチした翻訳者さんを確保するため1日何十件ものメールや電話のやり取りでPCに張りついていることも多々あります。

以前、上司に「コーディネーターの采配が、その案件の質を決める」と言われたことがあるのですが、本当にそのとおりで、クライアントのニーズに対して柔軟に対応出来るコーディネーターほど優秀であると言えます。特に翻訳者の選定は重要な要素となります。

翻訳者さんの選定方法

翻訳者選定の基準は翻訳の品質や経験、知識量だけではありません。もちろんクライアントのニーズが「品質第一」なのであれば翻訳者さんの経験値や実績を重視しますが、「スピード優先。大体の内容が分かればいいからとにかく早く翻訳して!」と言うのなら、メールのレスポンスが早く、処理量が多い翻訳者さんをアサインします。

(品質はどうでもいいと言うわけではなく、優先事項のお話です)

ときには、翻訳者レベルの知識が必要になるチェック業務や、CATツールの翻訳メモリ作成などの周辺業務も必要となるので、翻訳以外の業務を引き受けてくれる翻訳者さんも有り難い存在です

コーディネーターの頭の中では、以下のような感じで翻訳者さんがカテゴライズされていて、「この場合は、この翻訳者さん」という一定の決まりがあります。(あくまで一例ですが)

  • 経験豊富で、オールマイティ。複数のクライアントから指名があり、この人にお願いすればまず間違いない
  • 医療業界(製薬会社での勤務経験や、医師・薬剤師・研究員など)での経験があり、特定の分野に対して背景知識に基づいた翻訳ができる
  • 翻訳者としての経験が長く、翻訳分野や作業形式の得手不得手がはっきりしている。得意(守備範囲内)の内容であれば、常に一定の品質を保持できる
  • アジア言語やヨーロッパ言語などの多言語翻訳や校正ができる
  • 広報/マーケティング文書など「訴求力」が求められる翻訳に対応できる
  • Office系ソフト(特にWord)の編集が得意で、少々複雑なデータの取り扱いができる
  • TradosやPhrase TMSなどのCATツールが使用できる
  • 変更履歴つきでの改訂翻訳(差分翻訳)に適切に対応できる
  • 翻訳速度が早く、処理量が多いので短納期案件に対応できる
  • メールレスポンスが早く、連絡がつきやすい
  • 海外在住者、夜間作業者、土日祝日作業者で、平日日中以外の時間を利用した作業ができる
  • 翻訳以外の周辺業務に対応できる(校正や翻訳メモリの作成など)

これらのような翻訳者さんそれぞれの特徴は、「翻訳者登録票」と「メール/電話でのやり取り」から情報を得ることがほとんどです。

どの翻訳会社でも、翻訳者登録時に得意分野やアピールポイントなどを登録表に記入することになるかと思います。たまに得意分野の欄に「医薬全般」とか「実務経験がないので、まだ得意と言えるものはありませんが、これから経験を積みたいです」の様に書く方がいるのですが、これでは何を依頼すればいいのかわかりませんし、新規の登録者情報が常時更新されるため大勢の中に埋もれて依頼が来ないかもしれません。翻訳会社へ提出する登録票は、可能な限り詳細にかつコーディネーターが依頼したくなるように記入することをおすすめします。

また、コーディネーターは翻訳者さんとの日頃のメールでのやり取りでも、情報収集しています。登録票にないちょっとしたことでも、やり取りの中で『他社で〇〇(翻訳分野)をよく翻訳している』『〇〇(文書の種類)は学習経験が長いので、馴染みがある』など聞けば、『じゃあ次にその案件が発生したら依頼してみよう』と思いますし、電話で話した印象が明るく丁寧な印象だと親近感や信頼感が増し、『この案件も前向きに検討してくれるかも』と翻訳者選定時の選択肢に入ってきます。

おわりに

コーディネーターは常に自社の戦力になってくれる翻訳者さんを必要としているので、一旦コーディネーターの引き出しに入ってしまえば仕事の依頼は必ずあります。会社規模が大きくない弊社でも700名以上の登録翻訳者がいるので、大手翻訳会社になれば倍以上はいるはずです。大勢の中に埋もれてしまわないよう、コーディネーターが依頼したくなるちょっとした工夫を意識してみてください。