知っておきたい!メディカル用語の略語の正しい訳し方・使い方

2025年6月23日医療翻訳用語の基礎

医療翻訳において、略語は避けて通れない存在です。英語の原文ではごく当たり前のように使われていても、日本語訳ではそのまま残すべきか、訳語をあてるべきか迷うケースも少なくありません。また、略語によっては複数の意味を持つものもあり、訳語選びを誤ると大きなミスにつながることもあります。
今回は、医療翻訳で頻出する略語の中でも、意味の取り違えが起こりやすいもの、文脈判断が必要なものを中心に紹介し、訳し方のコツを例文とともに紹介していきます。

[1] 有害事象関連の略語

  • AE(Adverse Event):有害事象
  • SAE(Serious Adverse Event):重篤な有害事象
  • ADR(Adverse Drug Reaction):副作用

[Check!]「有害事象」とは、医薬品の服用後に起きた、あらゆる健康上の問題を意味します。医薬品との因果関係が明らかなものだけでなく、関係が確立していないもの、未知・不明なものも広く含まれていることに注意しましょう。「副作用」とは、医薬品による作用のうち、本来の作用(治療)以外の作用のことを指します。有害事象と副作用の区別は大事です。

[2] その他の、注意して扱うべき有害事象関連の略語

  • TEAE(Treatment-Emergent Adverse Event):治験治療下に発現した有害事象
  • SUSAR(Suspected Unexpected Serious Adverse Reaction):重篤かつ予期しない副作用

<例文>
① The most common TEAE was nausea.
最も多かった治験下有害事象は悪心であった。
[Point!] 文書により複数の訳し方が存在します。例)治験治療下に発現した有害事象、治療下有害事象等。略語表で使用されている用語に統一するよう心がけましょう。

② All SUSARs must be reported to the regulatory authorities within the specified timelines.
すべての重篤かつ予期しない副作用(SUSAR)は、定められた期間内に規制当局へ報告しなければならない。
[Point!] 本文で初出の場合かつ以降も略語で出てくる場合は、上記のように併記する対応が良いでしょう。また、和訳では複数形は使用しないので注意ですね。

[3] 医療機器関連の略語

  • CT(computed tomography):コンピュータ断層撮影
  • MRI(magnetic resonance imaging):磁気共鳴画像
  • ECG(electrocardiogram):心電図

[Check!] これらの略語は、読み手にも馴染みがあるため、訳文でも略語を残したり、必要に応じて括弧書きで補足したりする方法が有効です。
特にECGの和訳に関しては、「心電図」と同じ3文字の用語で略す必要性がないことから、ECGという略語をそもそも使用しない場合もあります。本文内で統一されているか確認するようにしましょう。

[4] 診断関連の略語

  • COPD(chronic obstructive pulmonary disease):慢性閉塞性肺疾患
  • IBS(irritable bowel syndrome):過敏性腸症候群
  • RA(rheumatoid arthritis):関節リウマチ
  • CKD(chronic kidney disease):慢性腎臓病
  • HIV(human immunodeficiency virus):ヒト免疫不全ウイルス感染症

[Check!] 上記に取り上げた疾患名はあえて和訳にしなくてもOKな場合が多い略語です(初出時では和訳と併記が必要なことも)。専門文書や患者さん向けの資料など、文書の種類に応じて訳す、訳さないを考慮する必要がありますが、無理に正式名称で訳すとかえって読みにくくなることもあることを念頭に置いておくといいでしょう。


<例文>

① The patient was diagnosed with COPD.
患者は慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断された。
[Point!] 以降に用語が登場する場合は、単に「COPD」とした方が読みやすくなります。

② The subject was HIV-negative at screening.
被験者はスクリーニング時にHIV陰性であった。
[Point!] 十分浸透している疾患名のため、初出時を除いて訳さないのが一般的です。

おわりに

略語は、医療文書を簡潔に伝えるための有用なツールです。しかし、略語に慣れてくると、つい原文のままスルーしてしまったり、意味を誤って理解したまま訳してしまったりすることも生じやすくなります。
特にメディカル翻訳の学習初期では、「略語を見たらまず立ち止まって意味と文脈を確認する」習慣をつけることが、誤訳を防ぐ第一歩になります。
これからも略語に注意を払いながら、正確で読みやすい翻訳を目指していきましょう。

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