悩ましい漢字、平仮名、送り仮名

医療翻訳用語の基礎

今回は、日本語にフォーカスした「知っているようで知らないシリーズ」です。日々、日本語を使い、日本語に触れ、日本語を目にしている我々ですが、翻訳者や校正者の職業病として、何か「おかしな」言葉を聞いた/見たとき、敏感に反応してしまうことはないでしょうか。今回はそのような「おかしな」言葉の中で、漢字・平仮名・送り仮名についていくつかの例題を選び、表記のルールをまとめました。皆さんが気になってしまう「おかしな」言葉はありますか?ぜひご覧下さい。。。いやいやいや、ご覧ください

本動詞と補助動詞で漢字/平仮名表記が異なるもの

補助動詞とは、本動詞に後続し、実際の動作の意味を失って、意味を付け加えるものです。補助動詞は平仮名で表記し、動詞は漢字で表記します。
 
例1)下さい/ください
動詞:みかんを下さい
補助動詞:みかんを食べてください

 
例2)行く/いく
動詞:会社へ行く
補助動詞:人口が減っていく

 
例3)頂く/いただく
動詞:賞与を頂く
補助動詞:確認していただく

 
例4)見る/みる
動詞:試合を見る
補助動詞:挑戦してみる

 
例5)来る/くる
動詞:冬が来た
補助動詞:寒くなってきた

品詞により漢字/平仮名表記が異なるもの

品詞の違いにより、漢字か平仮名か書き分けます。
 
例1)従って/したがって
動詞:規則に従って行動する。
接続詞:有害事象の発現率は減少した。したがって、本剤の~

 
例2)併せて/あわせて
動詞:予算と納期を併せて検討します。
接続詞:あわせて、本件についても検討します。

 
例3)更に/さらに
副詞:更に改良を行った。
接続詞:さらに、インシデントの発生率について検討した。

 
例4)共に/ともに
副詞:共に行動する。
連語:全血算をモニタリングするとともに患者の状態を観察する。

 
例5)所/ところ
名詞:住む所
形容名詞:法律の定めるところにより、本件の~

名詞と動詞で送り仮名が異なるもの

送り仮名を有する語が連なった語では、送り仮名の付け方に迷うことがありますよね(例:組み立てる/組み立て/組立て/組立)。これについてはMTSの書式規定にも記載がありますが、原則として「動詞の場合は両方の漢字の後に送り仮名をつける」とし「名詞の場合は後ろの漢字の後のみ送り仮名をつける」としてください。

例1)
動詞:組み立てる
名詞:組立て

 
例2)
動詞:植え込む
名詞:植込み

 
例3)
動詞:組み入れる
名詞:組入れ

 
例4)
動詞:割り付ける
名詞:割付け

 

なお、例外として、慣用が固定した語では両方の送り仮名を省きます。
例)
動詞:取り扱う
名詞:取扱い
慣用が固定した語:取扱説明書(×取扱い説明書)

番外編(行う/行なう)

校正の仕事をしている時に修正しようかしまいか悩む送り仮名第1位は「おこなう」です!「行う」も「行なう」も、どちらもよく見ますが、結論から言うと、正しくは「行う」です。

① 1973年より以前は「行なう」が正しいとされてきたが、1973年以降は「行う」が正しいと転換した
② 「行った」と表記されている場合、単独では「おこなった」か「いった」か判断が難しい(「行なった」なら即判断できる)

との理由から「行なう」の表記も目にすることが多いですが、現在では「行う」が正しいい表記となっています。

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました。今回の表記ルールについては、基本的には文化庁が示す公用文の書き方に準じたものです。例えば新聞などの出版物では、独自のルールが定められており、この記事のルールは全分野で絶対的なものではありませんが、少なくともMTSをはじめとする医療翻訳分野では有効かと思います。
次回の「知っているようで知らないシリーズ」もお楽しみに!

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