翻訳クイズ#13
こんにちは。
MTSで仕事を始めてから、「生理食塩液」のことを「生食(せいしょく)」と省略することを知りました。当初は「生食(なましょく)だなんて、海産物みたい」と思っていたのですが、今ではスーパーの鮮魚売り場で生食(なましょく)用の牡蠣を見て、「生食(せいしょく)だなんて、病院みたい」と思うようになったので、人間、環境に染まるものだと感じています。なお、「生で食べる」ほうの「生食」は「せいしょく」とも読むそうです。
さて、翻訳クイズです。いつものように、下記の英訳に間違いが一つあります。探してみてくださいね。
問題文
原文:本試験では、社内の試験手順書に従って生理食塩液を調製し、これを体幹部ファントムに入れた。このファントム内に試験品を配置し、30分待ってから試験を開始した。
訳文:For the purpose of this testing, physiological saline was prepared according to the internal test procedures and filled into a torso phantom. The device under testing was placed in the phantom and left for 30 minutes before the testing is initiated.
■解説
いかがだったでしょうか。
修正していただきたかったのは以下の下線部です。
修正例:For the purpose of this testing, a torso phantom was filled with physiological saline which was prepared according to the internal test procedures. The device under testing was placed in the phantom and left for 30 minutes before the testing was initiated.
ポイントは動詞fill(ed)の扱いです。
他動詞のfillは
Fill A with Bの形で
AをBで満たす(AにBを入れる)
の意味を表します。
例:Fill the glass with water.
コップを水で満たす(コップに水を入れる)。
上記の説明と例から分かるように、目的語となるAはコップなどの「容器」、すなわち水などを「入れられる側のもの」です。冒頭の訳文では目的語がsalineになっており、fillの用法が正しくなかったという問題でした。なんとなく「入れる」という意味だけを覚えていた方には難しかったのではないでしょうか。ちなみに、この問題は私がかつて指摘された誤りに基づいているので、間違いを見つけられなかった方はお仲間です(笑)
上記の修正例はfillの用法を示すために、少し大掛かりに文を変更していますが、
[…] physiological saline was prepared according to the internal test procedures and poured into a torso phantom.
と、「入れる側のもの」を目的語に取る動詞に変える方が、修正としては簡潔です。
なお、phantom(ファントム)とは、人体を模擬的に再現した実験用の器材で、医療機器が人体に及ぼす影響や、体内にある医療機器に生じる体外からの影響などを検討するために用いられ、その目的に応じて形状や性質は様々に異なります。ここで用いられているのは、人体のうち胴体(体幹)のみを再現したファントムというわけです。
今回の内容が、皆様の翻訳の際にお役に立てば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
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