翻訳クイズ英訳編「主語の間違い」

医療翻訳クイズ

今回の翻訳クイズは「英訳編」です。
ことあるごとにいろんな方にお伝えしていることですが、和訳と英訳は裏表で、和訳から英訳の、英訳から和訳の参考になる知識や気づきを得ることができます。和訳専門の方も「英訳だから」と敬遠せずに、ご自身の翻訳に役立つなにかをこの記事から見出していただければ幸いです。

早速ですが、次の日英対訳文を読んで、修正すべき点を見つけてください。

問題文

原文:提出された資料を精査した結果、相談者が治験実施計画書に対して加えることを予定している変更内容は受け入れ可能と考えます。変更を反映した治験実施計画書を機構宛てに提出してください。
訳文:In the light of the data submitted, the applicant finds the proposed changes to the protocol acceptable. Please submit the revised protocol to the agency.

解説

いかがでしょうか。修正してほしかったのは以下の下線部です。

修正例:In the light of the data submitted, the agency finds the proposed changes to the protocol acceptable. Please submit the revised protocol.

修正の要点だけをまず言うと、最初の訳文はこの文が誰の目線で書かれたものなのかが誤っていました。

日本語は主語を省略しがちな言語なので、英訳する際は省略された主語を補わなければならない場合が多いです。この問題文でも「精査」したり、「考え」たりしたのが誰なのかは明記されていません。
「相談者」を動作の主体とみなして、applicantが主語であることに疑いをもたれなかった方もいるかもしれませんが、相談者=治験依頼者なので、資料の提出を受けて変更の可否を判断する立場にあるのは不自然です。
これは照会事項と呼ばれる文書の一部で、なじみのある方であればすぐにおかしいことに気付いたと思いますが、「照会事項なんて初めて聞いた」という方であっても、文の内容を把握しようと努めていれば、applicantを主語にすることの不自然さに気づけたはずです(通常の照会事項であれば、自明なので「機構宛てに」をわざわざ言うことはありませんが、照会事項を初めて見る方にとって調査や理解のヒントとなるように問題文に加えました)。

少々意地の悪い問題だったかもしれませんが、
・主語を適切に定めることが肝要
・原文を理解しなければ正しい翻訳はできない

という英訳の基礎となる要素を含めたつもりです。

今回の内容が、皆様の翻訳の際にお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。