翻訳クイズ #21
私は右利きなのですが、「なにかのときに備えて左手も上手く使えるようにしておこう」と思い立ち、食事を左手で取る練習を始めました。すぐに気づいたのは、左手で箸を操ることだけでなく、茶碗を持ったり、皿を押さえたりといった右手の動きが想定外に難しいということで、「あれ、こんなとき左手はどう動かしていたっけ?」としばしば思っています。
英日翻訳をしていると、原文につられて、自分では絶対に書いたり話したりしないような、不自然な訳し方をしてしまうことがありますが、「あれ、こんなとき普段はどう言う(書く)んだっけ?」という意識で注意したいですね。
さて、次の訳文(英日)から、修正すべき点を見つけてください。
問題文
原文:Subjects will receive the investigational product ABC123 on Day 1 and concomitant DEF456 on Day 15 of each 28-day cycle. Refer to the local label for detailed instructions on administration of DEF456.
訳文:被験者に対し、28日間を1サイクルとする各サイクルのDay 1に被験薬ABC123を投与し、Day 15に併用薬DEF456を投与する。DEF456の投与手順の詳細については、各地域のラベルを参照すること。
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解説
いかがでしょうか。修正してほしかった点は以下のとおりです。
修正例:被験者に対し、28日間を1サイクルとする各サイクルのDay 1に被験薬ABC123を投与し、Day 15に併用薬DEF456を投与する。DEF456の投与手順の詳細については、各地域の添付文書を参照すること。
具体的にどんな薬なのか、この文だけでは分かりませんが、どのようなお薬であっても、「ラベル」に詳細な手順が記載されているというのは考えづらく、このlabelは「添付文書」を指していると考えられます。
「添付文書はpackage insertでは?」と思った方もいるかもしれませんが、英語で「添付文書」に該当するものに言及する際は、むしろそれ以外の名称を用いることの方が多いです。
今回のクイズで取り上げたlabel(product label、drug product labelとする場合も)に加えて、prescribing informationも添付文書を指して用いられる用語です。治験実施計画書や治験薬概要書の参考文献で、他剤のUSPI(United States Prescribing Information=米国における添付文書)を見たことはないでしょうか。同様に、欧州ではSummary of Product Characteristics(SmPC)が添付文書に相当するものとして存在します(ただ、SmPCは「(欧州)製品概要」と訳されることが多いです)。これ以外にpackage leafletという用語もありますが、こちらは患者さん向けの添付文書です。
注意したいのは、labelにしてもprescribing informationにしても、「添付文書」ではなく、見たままの「ラベル」「処方情報」の意味で用いることも当然あるという点です。今回のクイズで「label/prescribing information=添付文書!」と知識を上書きするのではなく、「labelは『ラベル』ではないかもしれない」「prescribing informationは『処方情報』ではないかもしれない」という可能性を意識していただければと思います。
今回の内容が、皆様の翻訳の際にお役に立てば幸いです。ご覧いただきありがとうございました。
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