薬ができるまでに発生する翻訳文書 ~導入編~
医学翻訳では、薬ができるまでに大きく分けて5つのフェーズがあります。
今回を含めた数回で、それぞれの文書の内容を、薬の開発タイムラインに絡めてご紹介します。
薬ができるまで
基本的な薬ができるまでの流れは以下の通りです。
(1) 基礎研究:医薬品の素となる新規物質を発見したり、合成したりします。
(2) 非臨床試験:動物を対象として新規物質の有効性と安全性の研究を行います
(3) 臨床試験(治験):ヒトを対象として有効性と安全性の検証を行います。医薬品の承認申請を目的として行う臨床試験を「治験」と言います。治験には以下の3つの段階があります。
- 第I相試験:少数の健康な成人ボランティアを対象として、開発中の薬剤を投与し、その安全性(人体に副作用は無いか)や薬物動態(薬剤が体にどのように吸収され排泄されていくか)を確認します。
- 第II相試験:少数の患者さんを対象として、第Ⅰ相試験で安全性が確認された用量の範囲で開発中の薬剤を投与し、その安全性、用法(投与の仕方、投与回数、投与期間、投与間隔など)、用量(最も効果的な投与量)を調べます。第II相からは目的とする疾患の患者さんが対象となります。
- 第III相試験:多数の患者さんを対象として総合的な有効性や安全性の検証を行います。また、既に承認され使用されている他の薬剤と比較して、どこが異なっていて、どこが優れているかを調べる比較試験を行う場合もあります。
(4) 承認申請・製造販売:企業から厚生労働省への承認申請と医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査が行われたのち、承認されます。承認後、企業は製造販売を開始します。
(5) 製造販売後調査:販売後にも安全性や使用法のチェックが必要です。そのうちの1つが第IV相試験(製造販売後臨床試験)です。第IV相試験は承認申請を目的としていないため、「治験」とは呼びません。(例えば、Investigatorも「治験責任医師」ではなく「試験責任医師」になるのでご注意を!)
今回は人を対象とする臨床試験の前段階である、(1)~(2)で発生する文書を見ていきましょう!
(1)基礎研究段階で発生する文書
実はこの基礎研究段階で翻訳の依頼が来ることはほとんどありません。秘匿性が高いことが一因かとおもわれます。ただし、基礎研究の結果が次回ご紹介する治験薬概要書やPMDAへの相談資料・申請資料に記載されることがあります。
(2)非臨床試験段階で発生する文書
非臨床試験計画書(非臨床試験プロトコール):動物を対象とした毒性試験・薬効薬理試験・薬物動態試験などの計画書です。今回のテーマは「薬」なので、医療機器はテーマ外となってしまいますが、薬ではなく医療機器の場合、材料試験などのベンチテスト試験もこの非臨床試験に該当します。和訳が多いです。
非臨床試験報告書(非臨床試験レポート):上記の非臨床試験計画書の報告書です。非臨床試験計画書と対になっているため、一部流用ができたりします。ただし、非臨床試験計画書が現在形や未来形で書かれているのに対し、この非臨床試験報告書は過去形で書かれるので、流用の際はご注意を。非臨床試験計画書と同じく和訳が多いです。
おわりに
今回は、導入編として基礎研究と非臨床試験をご紹介しました。
次回は臨床試験(ヒトを対象とする試験)で発生する翻訳文書をご紹介していきます。こちらもかなりボリュームたっぷりの内容となっていますのでお楽しみに!
今回の内容が、皆様の翻訳時にお役に立てば幸いです。
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